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パソコンとメガネ

全ての最前線で戦うナースに捧ぐ

更新日:6月10日




倒れるまで戦ってはいけない



先日、一人の若い医療従事者が当院を緊急受診された。


詳細は伏せるが、現在も高度急性期医療施設の最前線で働いている方である。

長期間にわたる日勤、夜勤。

医療業界は慢性的な人員不足。

最前線では、離職する者が絶えない・・。慢性的に欠員対応に追われる。

終わりの見えない緊急業務。

「代わりに入れないか」

「今日だけお願いできないか」

そう頼まれるたびに、その方は断らなかったという。

患者のため。

同僚のため。

病棟のため。

責任感の強い人ほど、自分を後回しにする。




そしてついに身体が悲鳴を上げた。

診断は十二指腸潰瘍だった。

医療従事者である彼女は、その意味を十分理解していた。

出血。

穿孔。

腹膜炎。

場合によっては命に関わる。

私は検査後、眠りについた彼女のベッドサイドに座りながら、しばらく考えていた。

不思議な感覚だった。

おそらく彼女も診察中に気付いていたと思う。

この初老の医師も、かつては同じ世界を生きてきた人間なのだと。




私もかつて、救急、集中治療、消化器外科の現場にいた。

若い頃は非情なる消化器外科医の一人だったと思う。

患者の救命が全てだった。

それが我々の使命だった。

看護師にも。

技師にも。

薬剤師にも。

事務職員にも。

必要とあれば厳しい全身管理指示を出した。

当時彼らからは嫌われていたと思う。

誰にどのような悪口を言われようが構わなかった。

患者を救うことだけに集中していたからである。

当時は正月も盆もなかった。



時間外勤務は月300時間を超えた。

500時間近くになった月もあった。

家族との約束も何度も破った。

運動会の途中で病院から呼び出され、会場を後にしたこともある。

学芸会に行くと約束しながら行けなかったこともある。

家に帰れば疲れ果て、時には医療現場の過酷さを愚痴っていた。

私の子供たちは、その姿をずっと見て育った。

そして数年前、彼らは私に言った。

「自分たちは医療の道には進まない」

私は反対しなかった。

賛成もしなかった。

ただ、

「それも一つの正しい判断だ」

と思った。

彼らは医療の理想だけでなく、現実も見ていたからである。





だからなのだろうか。


リカバリーベッドで眠るその若い医療従事者を見ていると、

TEAMの部下というより、自分の娘のように見えてしまった。

必要な仕事であることは分かっている。

社会にとって不可欠な仕事であることも分かっている。

しかし同時に思う。

本当にそこまで身体を削らなければならないのだろうか、と。

もし自分の娘だったら。

もし自分の息子だったら。

潰瘍になるまで。

身体を壊すまで。

そこまで頑張らせたいと思うだろうか。


答えは違う。

そんなはずはない。

医療は尊い仕事である。

しかし医療者自身の人生もまた尊い。

患者を救うために、自らが壊れてよい理由にはならない。

彼女が目を覚ました後、私は診断結果を説明した。

そして最後にこう伝えた。

「今後、本当に辛い時、痛い時、

苦しい時は必ず周囲に伝えなさい。」

「同僚でもいい。」

「先輩でもいい。」

「上司でもいい。」

「必ず報告しなさい。」

「自分一人で抱え込んではいけない。」

「今は何も考えなくていい。」

「まず休みなさい。」

「現場のことは現場が何とかする。」

「君の仕事は、今は回復することだ。」



診察を終えた帰り際、私は最後に頭を下げた。

「最前線で患者さんを支えてくださり、本当にありがとうございます。」

「どうかお身体を大切になさってください。」

「そして今後とも何卒よろしくお願いいたします。」

自然と最敬礼になっていた。

若い頃の私なら、きっとこんな言葉は言わなかっただろう。

しかし今は違う。


気が付けば、最前線で戦っているのは、自分の子供たちと同じ世代の若者たちである。

そして後日、その方からアンケートが返ってきた。

そこに書かれていた内容を見て、私はしばらく言葉を失った。

体調不良への不満でもない。

職場への愚痴でもない。

「さらに成長できるよう努力したい」

そんな趣旨の言葉だった。


正直に言う。

胸が熱くなった。

身体を壊してなお、前を向こうとしている。

もっと良い医療者になりたいと願っている。

そんな若者が、今の時代にも確かにいる。

私は長年医療の世界で生きてきた。

理想も見た。

現実も見た。

人が成長する姿も、去っていく姿も見てきた。

それでもなお思う。


日本の医療は、まだ大丈夫かもしれない。

このような若者たちがいる限り。


どうか早く元気になってほしい。


どうか長く医療の世界で活躍してほしい。


そして全国で急性期医療を支えて

くださっている全ての若い医療従事者の皆様へ。

心から感謝を申し上げたい。


皆様がいるからこそ、多くの患者さんが救われています。


皆様がいるからこそ、日本の急性期

医療は今日も動いています。


誰も貴方に感謝の言葉を述べていないのだとしたら、私が代わって申し上げます。


本当にありがとうございます。











 
 
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